新潟白根総合病院 副院長 大矢実
ネアンデルタール人は約40万年から2万5千年前まで地球上に生息した'ホモ・サピエンス'、我々現生人類の亜種である。我々よりやや大型で積極的に火を使い、多くの石器を狩りや動物解体などに用いていたと考えられている。此の石器は剥片を利用した比較的簡単なものであったが、長い年月にわたり広い地域で同様のものが利用されていた。このこと・・同じ石器の製法・利用法が長年受け継がれていたことは、彼らが知識や技術を正確に伝え続けたことを示している。一方、我々現生人類は、伝えることを苦手としている様である・・石器や道具は地域により年代により様々で同じものが伝え続けられていることは少ない。日本でも「技術は親方から盗め」などと言われてきたが、技術は教えられるものではなく、見よう見真似で憶えるもの・・詳細に教えないことが我々現生人類の本質的特性だったようである。十分に教わることなく、真似てみることで完全なコピーでない・・その人なりの工夫が生まれると考えられている。その殆どに利用価値はなく、消え・忘れ去られてゆくが、極稀にブレイクスルーとなる工夫・発明が生まれ、多くのヒトに利用される。 これが、創意工夫に長け適応性の高さの所以とされている。このことだけがネアンデルタール人が滅び、我々が生き残った理由とまでは言えないが、我々が唯一の'ホモ・サピエンス'(賢い人間)として生き残った要因であることは確かである。
科学技術の進歩著しい現代では、促成的に労働者を養成するためにマニュアル化が著しい・・これまで人類が生きてきたのとは比較にならない速さで社会・環境が変化しており、一部致し方ないことかも知れないが、マニュアルだけに従い考えることを止めることは、我々が時に選ばれた特性を捨てたことになりはしないだろうか。